コルネーエヴァ スヴェトラーナ先生
日本文化への深い理解。
それが、グローバル社会を生きる際、
自身の拠り所、そして自信と力になる
コルネーエヴァ スヴェトラーナ
Svetlana Korneeva
国際学部 国際学科 准教授
専門分野?専攻 日本文化論
Svetlana Korneeva
国際学部 国際学科 准教授
専門分野?専攻 日本文化論
[プロフィール]ロシア?サハリン国立総合大学東洋学部日本語学科卒、奈良女子大学大学院人間文化研究科国際社会文化学専攻博士前期課程終了、総合研究大学院大学文化科学研究科国際日本研究専攻博士後期課程単位取得後退学、博士(学術)。帝京大学准教授等を経て、2024年実践女子大学に着任し、現職。趣味は着物の収集や美術館巡りなど。
武士への興味をきっかけに、
日本文化における美意識や死生観を追究
私はロシア連邦のサハリン州で育ちました。思春期を迎えたのは、ロシアの前身ともいえるソビエト連邦が崩壊し、アメリカをはじめ他の国の文化に自由に触れられるようになった時期。周囲の友達が他国に目を向ける中、私も日本に関心を持つようになりました。サハリンには日本の企業がいくつも進出しており、官公庁の事務所もあって、元々身近な存在。日本人のペンフレンドもいて、神社や自然の写真を送ってもらったこともあり、「神秘的な国」というイメージを持っていました。
ロシアで大学の東洋学部日本語学科に進み、在学中、お茶の水女子大学に留学。その時受けた授業をきっかけに、日本ならではの美意識が感じられる「武士」に興味を抱くようになりました。
大学卒業後、2年間働いてから奈良女子大学に留学。美意識や記憶論などを専門とする恩師?大野道邦先生の指導のもと、武士をテーマに研究に取り組みました。原著や原典に向き合う大切さを知ったのもこの時期。ロシア人の私が日本の古い史料を読み込むのは難しく大変でしたが、面白さを感じるようになると、どんどんのめり込んでいきました。
武士の研究から発展し、やがて切腹の文化史研究に取り組むように。日本文化には歌舞伎に象徴される華やかなものから、わび?さびから感じ取れる落ち着いたものまで、さまざまな美意識があります。切腹という事象にも、悲愴美(悲しく心が痛めつけられるような様子から感じ取れる美しさ)という日本特有の美意識が感じられ、より深く知りたいと思いました。
日本文化において、死や命、犠牲はどのような意味を持っているのか。現代において人が切腹する事はほとんどありませんが、今もその言葉が使われることはあり、それ自体が特別な意味合いを持っています。なぜそのようになっていったのか、といったように対象や時代を広げ、日本文化における美意識、究極的には死生観や倫理観を追究しています。
切腹から読み取れるのは、「自らの死を、自らで選ぶ」という覚悟や気概が武士には求められたということ。その一方で切腹は、武家社会において刑罰として用いられることもありました。例えば喧嘩として武士の間で刃傷事件が起こった場合、裁きによって通常は切腹が言い渡されました。
それでは、江戸時代ではこうした刃傷事件が起きた場合にどのような処置や処理がされたのか、処罰の内容やその対象者がどのようなものであったのか。そんな関心を掘り下げ、江戸時代前期の盛岡藩?加賀藩の99の事例を分析して実態を解明した研究を、『喧嘩両成敗と乱心』(汲古書院)という書籍にまとめて2024年2月に出版しました。この研究を通じて見えてきたのは、刑罰として切腹が申しつけられる場合、数種類ある死刑の中、武士としての面目を保てるようにという配慮があったこと。また、事件処理にあたっての各藩の制度には、日本文化や社会の独自性を紐解くヒントが数多く詰まっていることも把握できました。
海外出身者としての視点を盛り込みながら、
日本文化を見つめ「日本らしさ」を考える
講義では、日本文化科目群に所属する「日本文化論a?b」、「現代日本社会論」を担当します。
「日本文化論」では、「文化とは何か」という問いから出発し、自然観や信仰、伝統芸能などの映像を交えながら、日本文化の特徴を考えていきます。わび?さび、風流、本音と建前といった概念にも触れ、「日本らしさ」とは何かを多角的に探ります。日本文化の形成と、それを構成している多様な側面について学びながら、世界における日本文化を見つめ直し、文化の多様性について理解を深めることを目的としています。
「現代日本社会論」では、日本社会のこれまでを概観したうえで、その行き着く先である現代日本社会を掘り下げていきます。年功序列や非正規社員に代表される労働問題、性自認やセクシュアリティなどジェンダーに関する議論、アニメやコスプレなどのサブカルチャーなどに目を向けながら、現代日本社会はどのような状況にあるのかを読み解きます。
授業では学生の発言や学生同士のディスカッションを重視し、物ごとを考え整理する力と考察力を養います。グループで作業する機会も積極的に設け、仲間とともに課題発見?解決し高め合う経験も積んでもらいたいと考えています。
また、ロシアで育ったロシア人という私のバックグラウンドを活かし、日本文化や、日本語での思考?表現が、国際社会の中でどのように位置づけられるかという視点も盛り込みます。日本文化がどのように見られているのかという外からの視点も知ることで、視野が広がり、自国の文化を客観的に見る視点が身につくと考えるからです。
こうした授業をヒントに、学生の皆さんには日本の社会や文化の中にある事象の何かに興味を持って、自分なりに長く追求していく対象を見つけてほしい。将来、世界を舞台に活躍するようになっても、皆さんの出身地は日本。「日本人だからこそできること、知っていること」を期待されるシーンが多々あり、自身の引出しを用意しておくと役立つと思います。
自国の文化への理解は、グローバル社会を生きるうえで自身の拠り所になります。私自身、ロシアの文化について本気で向き合ったのは日本に来てから。自分が生まれ育った国の独自性や強みを知ることが、自身のアイデンティティの確立につながるのです。
ロシアと日本でちょうど半分ずつ人生を過ごしてきた体験から、文化には「これが正しい」という正解はなく、さまざまな側面と実践とがある、と私は感じています。皆さんが客観的に日本を眺める経験を重ね、日本人としての文化的な背景を深く理解することでこれからのグローバル社会を生きる自信と強さを手にできるよう、自分の経験をもとにしっかりと後押ししていきたいです。